時空力コンサルタントの千神弥生です。(自己紹介)
生涯忘れられないあの事件が起きたのは、久しぶりに訪れた昔のバイト先から帰ろうとした瞬間だった。
「オイッ!!!」
男性スタッフの叫び声が聴こえたので、驚いて振り返ったその瞬間。
私の目に飛び込んできたのは、両手に商品を握りしめた男。それを追いかける男性スタッフだった。
「盗られたんだ!」
私はあっけにとられている店内のみんなを置いて追いかけた!
一番前に強盗、二番目に男性スタッフ、三番目に私、三人が猛ダッシュ!!
スニーカーを履いた強盗は、私たちのノロさをあざけ笑うようにニタニタと時々後ろを振り向きながら角を曲がり見えなくなった。
その表情に私は怒りが爆発した。
履いていたヒールを脱ぎ捨て、裸足でコンクリートの上をさらに猛ダッシュした!!
「クソ!このままでは追いつけない!」
そう思った私の目の前に左に曲がる道が出てきた。
これは前に一度だけ遅刻しそうな時に通ろうとして迷子になった道……。
たしかあの強盗をまちぶせできる所に出るはず!自分でも思いがけないほど脳みそがフル回転した。
すぐさま体を急カーブさせ頭の中では「バーン!」と強盗の前に立ちはだかる姿を思い描いた。
……。
が、一歩及ばず強盗は黒塗りの車に乗り込んで走り去っていった。
ハァハァ……体中の力が急に抜けそうになった。
「なんでお前がそこに…!?」
振り返ると息を切らした男性スタッフが目を丸くして立っていた。
「あそこを曲がればここに早く着けること知ってたんです!」
と得意げな顔したら、
「女性なんだから危ないよ!まちぶせしてどうするつもりだったの!?」
と言われ、冷静に考えると、かなり危なかったなと反省した。
二人でトボトボ歩いて帰るとほどなくして警察がきた。
事情を聞かれ指紋をとられザワザワしていた時、一本の電話が入った。
「何!?犯人を捕らえただと!?」
みんな一斉に警察官の方を見た。
どうやら逃げ帰ろうとした強盗が、通報によりインターで張っていた警察から逃げようとしたが確保したとのこと!
「よっしゃあーー!!」歓声があがった!
「犯人を確認しにいきます!早く乗って!」
私と男性スタッフを乗せたパトカーは、田舎の幅の狭い渋滞した道路を、歩く速さで進んだ。
「ウゥ~ン!ウゥ~ン!」と鳴り響くサイレン。「緊急です!こちらパトカー、道を開けてください!」と叫ぶ声。
その勢いあまる繰り返しに、今この目の前に犯人がいるかのように思えた。
その後、渋滞を抜けたパトカー(おまわりさん)は炸裂した!
もう全く渋滞していない!ジャマな車もゼロ!犯人も捕まってる!
でもそんなの関係ない!
天井のフックをしっかりと握っても、右ドアに左ドアにと体が押し当てられていく私たち!
もうやめて!ドキドキハラハラ恋に落ちちゃう!でもそんなの関係ない!
インターまでのスッカスカの山道での激恋ストーリーはだいぶ続いた。
そしてようやく犯人がいる場所に到着したが、おまわりさんのアレはまだ続いていた。
「どこだ!どこにいるんだ!」
そう、そうだった!今わたしたちは犯人を追ってるんだった!もう捕まったとカン違いしてた!この建物のどこかに身を潜めているんだった!
4人が慎重にあたりを見回したその時!
「こっちですよ~。」と声がして一斉に振り返った!
……。
インターのおまわりさんだった。
私たちはパトカーのなかに拘束されている犯人の顔を確認しに行った。
「正直覚えてないけどな~。」と思いながらも窓から覗き込むと、あのニタニタ顔~!
「そうです!間違いありません!」とハッキリ言った。犯人は警察署に連行された。
帰り道のおまわりさんネタと、私の事情聴取をまとめた内容が「おいおい」だった話はまた別の機会に。
そうそう、犯人には共犯者が下見にきていたらしく、そういえば私が裸足で帰ってきた後、犯人と同時に店内にいた男性が靴を拾ってくれていたけど、ニタニタしていた。
真相は、闇のなか。
その後しばらくは、街中で服はスーツなのに足元は黒いスニーカーの男性を見るたびに、
どうしても目が離せなかった。
お店に戻ると、私たちはみんなから拍手で迎えられた。
店長からは「お前はなんて正義感に溢れたヤツなんだ!俺は感動した!!ほんとにありがとう!!でも、頼むからもう二度と危ない目に合わないでくれ!」と言われ、
今でも私たちは、その店で「伝説のヒーロー」となっている。
今でも、あのとっさに追いかけた行為が「正義感」かどうかは分からない。
体が勝手に動いただけなんですよね、掴まえなければ、と。
ただ、たしかに、この時の猛ダッシュは、ヤンキーに「そこどけろ!」と言われ「うるせーな!」と言い返したら追いかけられ猛ダッシュで逃げた時と、
車中で大ゲンカしていたカレシが自分の車を置いて逃走したのでそれを猛ダッシュで捕まえに行った時とは、違っていた。
自分のためではなかった。
いつも可愛がってくれる店長、共にバイトをがんばっていたみんな、そして店で買い物してくれるたくさんのお客様たち。
頭に浮かんだのは、みんなの笑顔だけだった。
「絶対とっつかまえてやるからな!!」その思いだけだった。
あれからもう、ものすごい時が過ぎた。母となった私はこのあり余るエネルギーを違う形に転換し、人の役に立たせていただいている。
ただ、にこやかな笑顔のなかに時折見せる不動明王の顔は、覚醒したわたしの本当の姿のような気もします。