時空力コンサルタントの千神弥生です。(自己紹介)
私には時々、神風が吹く。
勤めていた宝石店が、新店舗を建設することになった時のことです。
宝石店として、日本一の規模になる予定の新店舗は、社長にとってはもちろん、社員の私たちにとっても大きな挑戦でした。
従業員は倍に増やさないといけないし、その教育や商品管理、本店との連携など考えなければならないことが多く、
他のライバル店にとっても大打撃ということになるので、自分たちがしようとしていることへの重大さで、皆が日々緊張感を持っていました。
そんなある日、いよいよ新店舗が建つ土地の地鎮祭が行われることになりました。
貼り紙に明日の地鎮祭の集合場所と時間が書かれていました。
「なになに、阿智(あち)神社でやる。会社に9時集合。よし!」
その夜、いつも以上に気合を入れて携帯の目覚ましをセットすると、
なんかいつもと違うマークが表示されたのですが、「まあいっか」と寝ました。
朝、目が覚めると、なにかがおかしかった。
あの変な空気感と光の感じ。
恐る恐る携帯を見ると、なんと、10時だった……。
携帯を見ると、上司と同僚から死ぬほど着信が入っており、上司にかけなおすと「おい千神……。お前な……。あ、もう始まるから」
ブツッ…ツーツー…
私は、無音の携帯に向かって「すみません! すみません! すみません!」と謝りながら、家を飛び出した!
(あの変なマークは、ドライブモードというやつだった!)
その頃の私は、メイクせずに外を歩くなんて死んでもあり得ない! という人だったが、この時ばかりは、会社の一世一代の二度とないレベルの超重要行事の遅刻!
コンタクトと歯磨きだけしてノーメイクで走った!
車をぶっ飛ばしにぶっ飛ばして、20分ほどで阿智神社のふもとの駐車場にとめた。
「絶対間に合う絶対間に合うギリギリ間に合う」と祈りを唱えながら、
口の中が血の味するほど階段を登って、やっと頂上に着いた!
ゴーーール!! よっしゃぁ! 間に合った!
ハァハァハァ……!?
大きな垂れ幕に、七五三と書いてあった。
え!? うちの会社の地鎮祭はどこ!? 今ならまだ間に合うんですけど!
「すみません!地鎮祭はどこでやってるんですか!?」巫女さんを掴まえて訴えた。
「本日は七五三のみです。ニコッ」
えーーーー!? なんでーー!? 阿智神社って書いてあったし!
確かに!
確かに!
たしかに?
たしか…。
……
オーーーマイガッッ!!
阿智神社じゃない!
足高(あしたか)神社だ!!
「あ」しか合ってねーし!!
もうほんと泣きそうだった。
でも泣いてる暇ないので、またマラソン大会のように走り、車に飛び乗った!
でも、今度は足高神社がどこか全然分からない……!
もうほんと泣きそうだった。
でも泣いてる暇ないので、友達に電話してナビゲートしてもらい、やっとのことで足高神社らしき山のふもとの駐車場に着いた!
そこからまた走って、神社の境内を探していると、階段を発見ーーー!
同時に、上の方からなにやらワイワイと楽しそうな話し声が聞こえてきた!
「もしかして、会社のみんな……?」階段の上を見上げる私!
地鎮祭のご祈祷を無事に終えた全社員たちが、談笑しながら階段を降りようとしたその時、
青白い顔をして髪を振り乱した陰気な女がひとり、階段の下に立っていた……。
「うわーーっ!!! 幽霊だぁーー!!!」
え!? どこ幽霊!? 怖いっっ!!
……
私のことだった……。
「えと、千神なんですけど……」
そう呟くと、この見たこともない女がもしかしたら、あの千神さんかもしれないと近寄ってきた社員たちは、恐る恐る私に近寄り、そして大爆笑した。
「アッハッハッハー! のび太だーー!!! のび太がいるーーー!!!」
……
そう、私はノーメイクだと、のび太がメガネを取った、あの顔に似ているんです……。
自分では自覚していた別人級の素顔が、白日の下にさらされました……。
今まで完璧に美しいメイクをしてきたのに……。
遅刻した自分が悪いとはいえ……。
気の毒なほどに悲壮感満載で立ち尽くす「のび太」を見て、笑って許すしかなかったと、後からみんなに言われました。
こうして大遅刻したのに、一切怒られなかった私は、
その後、新店舗の土地にお酒などをお供えする式に、社員のほとんどが帰る中、せめてここだけはと幹部とともに残り、なんとか償いました。
会社を辞めるしかないと社長にお詫びの電話をしたら「バカか」の一言で終わりました。
よかった……。
それから何年も経って、すっかり新店舗も軌道に乗っていたときです。
たまたま当時の写真が出てきたらしく、それ以降に入った社員が写真を見て、
「千神さんは最初からずっと幹部だったんですね! ますます尊敬です!」
とキラキラとした眼差しで見つめてきました。
見るとそこには、神社の後の土地のお清めの際に、幹部に紛れて、最初からいたような顔して、堂々と写り込んでいる私がいました。
さっきまでの「のび太」はどこへやら、いつのまにやら、
完璧なまでに美しいメイクをほどこした余裕の笑顔に、我ながら、あっぱれだった……。
そう、全力で生きている私には時々、神風が吹くんです。