言葉で人を傷つけたこと、ありますか?
私は、あります。
言葉で、あるカップルさんを傷つけてしまいました。
33才か34才の時のことです。
当時私は宝石店で働いており、ブランド時計や宝石、ブライダルリングなどを販売していました。
その中でも私のメイン担当は、ブライダルでした。
ブライダル部門のリーダーとして販売だけでなく、売上管理や社員教育、
他にも『ゼクシィ』など3冊の結婚情報雑誌の制作を任されていました。
部門の売上が悪いと社長にめちゃくちゃ詰められるので(笑)、とにかく毎日、毎月、毎年が気が気ではなく、寝ても覚めても仕事のことしか考えていませんでした。
死に物狂いの日々でしたね。
来店されるカップルさんが、うちのお店でブライダルリングを購入してくださるよう、様々な角度からアプローチをする日々、本当に馬車馬のように働いていました。
こんなふうに裏では苦しいこともあったけれど、でも、
約10年の勤務で2500組以上のカップルさん達、5000人を超える幸せな男女たちに出会うことができました。
一番初々しくて幸せ絶頂のカップルさんをサポートさせていただけたことは、大変貴重で幸せな経験でした。
そんなある日、1組のステキなカップルさんがお店を訪れました。
詳細は省かせていただくのですが、結果的に、そのカップルさんを傷つけてしまうことになったのです。
原因は、雑誌に載せるために書いた私の言葉によって、です。
この件で、カップルさんを深く傷つけてしまいました。
また、私自身も、お二人を傷つけてしまったことに深く傷つき、それから何年間もこの件を思い出すたびに涙を流していました。
ブライダルは、縁起がすべてです。
結婚という新しい門出を祝い、縁起を担ぐべき立場でありながら、
その私自身がみずから縁起を損なうことをしてしまった……。
時間は決して巻き戻らず、取り返しのつかないことをしてしまったその罪の重さとお客様へのお詫びの気持ちで、自分を責め続けたのでした。
それから6,7年が経ちました。
今の仕事である心理コンサルタントを目指している最中で、あの傷が癒える瞬間が訪れたのでした。
それは、コンサル養成講座の仲間同士でコンサルの練習をしていた時のことです。
出産を機会に会社を辞めて家にいるようになり、時間と子供があの傷を癒やしてくれていました。
時々思い出して悲しい気持ちにはなるけれど、なんとかもう涙はこらえることができていた頃でした。
ところが、そのコンサル練習中に、「人生で起きた印象的なできごと」を語る場面がありました。
私はそのカップルさんとのトラブルの件を話していたのですが、
突然、当時と同じくらいの感情がぶり返してきて、大号泣してしまったのです。
あんなに泣いて泣いて、泣き尽くしたはずなのに、まだ涙がでるの……!?
泣きながら驚いている自分がいました。
そして、泣きながら、あの辛く苦しい出来事が「なぜ起こったのか?」その意味がつながったのです。
さらに、涙が止まらず、仲間のみんなにはしばらく泣き止むまで待ってもらいました。
やっと、自分を赦せた瞬間だったのだと思います。
もちろん、あの出来事をなかったことにするということではありません。
あの出来事の後、こんな私のような人間がブライダルに関わってはいけないと思い、仕事を辞めようと思いました。
ところが、社長から、
「そう思うなら、ここから来られるお客様を全員おまえが幸せにしていくしかないだろうが!」
と叱られました。
会社にとっても大変な出来事だったのですが、社長は私を受けとめ懸命に励ましてくれたのです。
今考えると、私は逃げようとしていたのだと思います。
「逃げるな、受けとめろ! それでも前に進め!」
社長はそう言ってくれていたのです。
本当にあの頃は苦しかったです……。
前にも後ろにも進めるような精神状態ではなかったのに、
それでも来店されるお客様に笑顔で対応しなくてはならなかったので。
それから少しずつ、なんとか気持ちを立て直していきました。
そして、私にできること、残された道とは、
あのカップルさんの幸せを死ぬまで祈ることしかない
これでした。
さらに、
ここから出会うカップルさん達を幸せにすること
これが私のせめてもの罪滅ぼしだ、そう思って仕事を続けました。
でも、そのコンサル練習の時の号泣は、
罪滅ぼしという次元を遥かに超えさせたのです。
あの出来事は、私がこの世に生まれてきた意味、存在している理由、これから生きていく意味を、教えてくれたのです。
あのカップルさんとの深い深いご縁、出会えたことの意味が分かった時、
ただただ感謝でいっぱいになり、さらに号泣するしかありませんでした。
それ以来、私はあの出来事を思い出しても、泣くことも心がざわつくこともなくなりました。
後悔、お詫びの気持ちは、この先ももちろんあり続けます。
でも、それ以上に感謝の気持ちと、お二人の幸せを祈る気持ちの方が勝るのです。
あの出来事が起きた時から今日までずっと変わらないのは、
「カップルさんが幸せに暮らしていますように」
という気持ちです。
これは、私が死ぬ時まで、ずっと祈り続けるものです。
大げさに聞こえるかもしれませんが、
ブライダルの仕事をする者として元々持っていた「カップルの幸せを祈る」という気持ちが、
あの出来事でより強くなったのだと思っています。
ところで、今の心理コンサルの仕事で私のところに来てくださる多くのクライアントさんは、結婚されている女性側です。
時々、男性も来られますが、そのほとんどが結婚についてのお悩み相談です。
そう……誰もがみんな、愛する人と一緒に仲良く幸せに暮らしていきたいという願いを、深く持っているんですよね……。
幸いにも私はコンサルを学んだことで、
こじれた夫婦関係を解きほぐし、自分の旦那さんが(奥さんが)世界一素晴らしい人で、
自分にピッタリの相手なんだと心から納得できるようになる、
そんなふうにサポートできるようになりました。
「二人の始まり」としてのブライダルリングのサポートから、
「二人の成長」としての結婚生活のサポートに変わったのです。
私にとっては、
結婚した夫婦でもずっと、あの指輪を買いに来られた時の最初の初々しくてお互いを大好きな二人
というイメージのままなのです。
結婚も何年もしたら色々なことが起こって、いつのまにか夫婦仲が悪くなっていくわけです。
でも、お互いが好き合っている最高のイメージを強く持っている私だからこそ、
コンサルをとおして「二人の原点」に戻すことができるのだと思っています。
このような素晴らしいコンサル技術を教えてくださった先生には、本当に感謝しています。
また、あの時、ブライダルの仕事を辞めないように支えてくれた社長にも、本当に感謝しています。
今あらためて、
「私から指輪を買った人(私のコンサルを受けた人)は絶対に幸せになる、いや、する」という強い想い、
絶対的な自信を取り戻した感覚があります。
それが、私が生まれてきた理由だし、これから先も生きていく理由だと心から思えるのです。
雑誌に載せた私が書いた言葉、本来はカップルさんの幸せな未来を祝福するべきはずが、真逆、傷つけてしまったあの出来事……。
生涯で一番辛く悲しい出来事でしたが、だからこそ、
ここまでカップルさんの幸せや、幸せな結婚生活を送ってほしいと願えているのだと思えるようになりました。
そんな私ですが、今は、ライティングの仕事もしています。
それは、言葉で人を傷つけた私だからこそ、
言葉で人を元気づけることをやっているのだとも思っています。
コンサルの仕事も、ライティングの仕事も、
いつもその背景には自然と、あのカップルさんとの出来事があるのです。
文章を書くのは得意ではないので毎日苦戦の日々ですが、
言葉の意味と深さ、言葉の影響力を学ぶことは、私にとっては当然のことなのだと思っています。